大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)750号 判決 1958年10月17日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人三根谷実蔵同佐竹己之松同中村忠純の上告理由

第一点及び第三点について。

所論は、原審の専権に属する証拠の採否、事実認定を非難するものであり、又所論の賃貸借契約合意解除の事実は認められない旨の原判示もこれを首肯することができ、所論のような経験則違背の違法は認められない。所論は採用できない。

同第二点について。

昭和一〇年頃本件土地の賃貸借が成立したことについては当事者間に争がなく、原判決が右争のない事実を前提として所論法令適用の結果、設定の時より二〇年を賃貸借存続期間と判示したからといつて、当事者主義に反する違法であるとはいえない。又原判決は所論土地賃借権の譲渡がなされたのは昭和一九年七月ごろと認定しているのであり、その際における賃料、その支払方法等につき判示するところがなくても、右譲渡の効力に影響はないから、この点についても何ら違法はない。所論いずれも採用できない。

同第四点について。

原判決が鑑定人服部及佐藤の各鑑定の結果を排斥した理由は判文上明らかであり、また鑑定人の鑑定を排斥するにはこれと反対の結果に帰する鑑定を常に必要とする法則も存しないから、原判決には所論のような違法はない。また所論は本件建物が未だ朽廃の程度に達しないとの原判決の認定を種々非難するが、原判決は証拠に基き諸般の状況を認定し、とくに「本件建物は、木造建物部分の骨格部分というべき柱、桁、屋根の小屋組等の一部に多少の腐蝕箇所のあることが見られるけれども、とにかくこれら部分の構造にもとずく自らの力によつて屋根を支えて独立に地上に存在しているものであり、もとより内部への人の出入に危険を感ぜしめるようなものではないことが認められる」と認定し、そして「本件建物は未だ建物としての社会的経済的効用を失う程度にはいたらないものであり、借地法第十七条第一項但書にいう朽廃の程度には達しないものというべきである」と判示しているのであつてその判断は正当である。所論はこれと異る前提にたつて原判決を非難するに帰し、採用できない。

同第五点について。

所論は、昭和二十四年中被上告人が本件建物に加えた修繕は大修繕であつて、右大修繕がなかつたならば本件建物は既に朽廃の域に達していたものであると主張するが、原判決は判示認定の修繕工事は、むしろ通常の修繕の範囲内にあるもので、もとより建物の同一性を害するものではないと判断し、かつ本件建物が未だ朽廃の程度に達していない事実を適法に確定したことは既に述べたとおりであつて、この原判決判示は相当である。所論は、ひつきよう、原審の認定に副わない事実に基ずき、原判決を非難するに過ぎず、引用の判例はその前提を欠く。所論は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例